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テクノロジー

淡水と海水の塩分濃度の差により充放電するバッテリーが開発される 53

ストーリー by headless
河口付近 部門より

danceman 曰く、

スタンフォード大学の研究チームが、淡水と海水の塩分濃度の違いとナノテクノロジーを利用して充放電する「混合エントロピーバッテリー」を開発したとのこと(スタンフォード大学のニュース記事本家/.)。

混合エントロピーバッテリーを開発したのは、Yi Cui准教授(材料工学)が率いる研究チーム。バッテリーは2つの電極を持つ単純な構造で、 陽極に二酸化マンガンのナノロッド、陰極に銀を使用している。このバッテリーに淡水を満たして「充電」し、淡水を排出して海水に入れ替えれば電力を取り出すことが可能となる。放電後は海水を排出して淡水に入れ替えれば再度充電される。毎秒50立方メートルの淡水を使用できれば、10万世帯分の電力供給に相当する100メガワットの電力を取り出すことが可能だという。

この技術を応用した発電所の建設に適しているのは河口付近だが、排水による自然環境への影響を十分に考慮する必要がある。また、 陰極として現在使用している銀は高価なため、実用化に向けて安価な代替素材を探しているとのこと。なお、淡水は川の水に限らず雨水や各種排水なども使用できるので、Cui准教授は処理済の下水利用について研究したいとも述べている。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • 論文はこれ (スコア:5, 参考になる)

    by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2011年05月08日 18時19分 (#1948602) 日記

    "Batteries for Efficient Energy Extraction from a Water Salinity Difference"
    F.L. Mantia et al., Nano Lett., 11, 1810–1813 (2011) [doi.org]

    単純に言えば以下の反応を使った電池.
    5MnO2 + 2Ag + 2NaCl ↔ Na2Mn5O10 + 2AgCl

    MnO2とAg電極を塩水につけるとイオンが浸透していき電流が流れ,Na2Mn5O10とAgClを真水につけるとイオンが抜けていって逆向きに電流が流れる.

    • by Anonymous Coward

      要するに塩漬けと塩抜きを繰り返す電池ですね。

      淡水源、塩水源が入手しやすく環境負荷がかからないという意味では河口は確かによさげだけど、この手のは不純物が問題にならないかなぁ?

      ※乾燥メンマ買った。塩蔵メンマよりもイイんだけど、塩抜きよりも戻しがさらにマンドクサ

      • Re:論文はこれ (スコア:2, 参考になる)

        by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2011年05月08日 19時23分 (#1948631) 日記

        >この手のは不純物が問題にならないかなぁ?

        一応Supporting Infoの方に実際の海水と淡水で実験した結果が載っていて,若干起電力の低下はあるものの動いてはいますね.といっても10時間だけのデータではありますが.
        まあメカニズム自体は単純なんで,プレフィルタみたいなもんでイオン以外の不純物を除けばそれなりに動きそうな気はします.

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        • 大きなゴミは良くても残留イオンが問題になりそうです。たとえば硝酸残れば硝酸銀が析出しそう。
          うまくイオン選択できる逆浸透膜つくっても、底の濃縮でとんとんのエネルギー喰うはずですし、ターゲット以外のイオンと反応しない都合のいい電極が見つかるまでは恒常的な運用は厳しそうな。

          イオンを選択除去できる下水処理施設の排水と純水+塩化ナトリウムみたいに両側調整すればマシかも。

          親コメント
          • by Anonymous Coward

            硝酸銀は水への溶解度が高いんで析出はしませんよ。
            そもそも、バルクとしてはAg(0)との反応がかなり行きにくかったはず。

        • 毎秒50立方メートルといえば、日本では鵡川がちょうどその流量です。
          http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B5%A1%E5%B7%9D
          この淡水を全部利用出来ると仮定すると、100MW即ち360GWhの発電が
          できるということでしょうか。

          代わりの素材は、自然に影響を与えないものを考える必要があるので銀以外に
          良い素材を見つけるのは大変そうです。

          元記事に処理済の下水利用が課題とありますが、phason先生の示されている化学式を見る限り
          下水というほどの汚い水にはならない気がするのですが、気のせいでしょうか?
          親コメント
          • Re:論文はこれ (スコア:3, 参考になる)

            by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2011年05月08日 20時12分 (#1948654) 日記

            >下水利用が課題とありますが

            ああ,違います違います.
            彼らが言ってるのは,淡水として処理済みの下水も利用できるよ,とそれだけのことです.
            比較的丈夫な(コンタミに影響を受けにくい)システムだから,塩分さえなければ大抵の水が使えるよ,と言うことのようです.

            親コメント
          • 自己レスですが、、、。

            Na2Mn5O10がどんな物質なのかは検索してもでてこなかったため、よく似た構成の物質の
            NaMnO4・3H2O(過マンガン酸ナトリウム)を確認してみたら第一類危険物第一種酸化性固体とありました。

            これを含む水の処理のコストがどれくらい付くかが課題になるのでしょう。
            親コメント
            • Re:論文はこれ (スコア:3, 参考になる)

              by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2011年05月08日 20時29分 (#1948662) 日記

              >NaMnO4・3H2O(過マンガン酸ナトリウム)

              こいつはMn+7なんで,凄く酸化力が高いんですよ.だから強酸化性物質として危険物になります.
              一方のMnO2-Na2Mn5O10はMnが3.6-4価なんでかなり安定です.
              #Mnは3-4価ぐらいがほどほどに安定.

              親コメント
            • by Anonymous Coward

              過マンガン酸ナトリウムって水溶液で使うものじゃない?
              ちょっと性質違うと思う。

            • by Anonymous Coward

              ソディウムクロライドがどんな物質なのかは検索してもでてこなかったため(出てくるけど)、それぞれの成分のNaとClについて調べてみました。

              くらい無茶な論法だと思いますが。

          • by MtCedar (31912) on 2011年05月10日 0時00分 (#1949393)
            > この淡水を全部利用出来ると仮定すると、100MW即ち360GWhの発電ができるということでしょうか。

            360GWh というのはどこから出てきた数字でしょう。
            (360 GWh) / (100 MW) = 150 日?
            親コメント
          • by Anonymous Coward

            >この淡水を全部利用出来ると仮定すると、100MW即ち360GWhの発電ができるということでしょうか。

            ということは、河口近辺の海域ではそれ以上のエネルギーが発生しているということですかね
            #海の熱容量が半端ない&ある程度の広範囲で発生するので目立たないんでしょうけれど

            • Re:論文はこれ (スコア:3, 参考になる)

              by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2011年05月09日 0時54分 (#1948767) 日記

              >河口近辺の海域ではそれ以上のエネルギーが発生しているということですかね

              塩水の希釈は吸熱反応だったような……
              濃い塩水と淡水でいた方がエネルギーは低い.ただしエントロピー項があるので,混ざった方が自由エネルギーは低い.
              だから河口付近では,希釈によって水系のエネルギーは高くなり,吸熱で温度が下がる方向に.

              今回の件は,エネルギーの高い物をエネルギーの低い物に変えて電力を引き出すのではなく,エネルギーが低くてエントロピーも低い物を,エネルギーが高くてエントロピーも高い状態に変えつつ,電力も引き出す.不足するエネルギーは熱エネルギーから転換されます(そのかわりエントロピーの増大で埋め合わせ).

              でまあ自由エネルギー差(エントロピー項も含めた,仕事を外部に引き出せる量)は確か,川の水と海の水の浸透圧の違いが250m相当の落差に当たるんだったような.
              そういう意味では,希釈の自由エネルギーを全部使うと,川の水全てを250mの落差に放り込んで水力発電できるのと同じようなことに.
              #まあそう簡単な話でもないんですが.

              確か東工大の高分子膜やってる教授が関電と組んで研究してました.
              膜方式だとスウェーデンにもやってる企業がありますし,ノルウェーで実証プラントが1-2年前に動いていたような.

              親コメント
              • by Anonymous Coward

                解説、どうもですm(__)m

                エントロピーとかが入ってくるとどうもわけがわからないもんで(苦笑)
                #入らなくてもよくわからないのは一緒だけど、レベルが1段上がる(大苦笑)

              • by Anonymous Coward

                世の中には中学二年生の女の子に宇宙のエントロピーについて語ってしまい「そんなのわからないよ、理解できないよ」と返答させてしまう事例があります。

                ※11話まで泣き虫だったのが、12話でキリッとするのが問題

    • by Anonymous Coward
      二酸化マンガン(MnO2)はマンガン電池にも使われているありふれた物質なので、この電池は学習教材に良いですね. 水と食塩水を使って簡単に実験できるのは面白いと思います.
      • Re:論文はこれ (スコア:5, 参考になる)

        by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2011年05月08日 20時46分 (#1948671) 日記

        >二酸化マンガン(MnO2)はマンガン電池にも使われているありふれた物質なので

        ところがそう簡単な話ではなく.
        実はMnO2を含むMn酸化物ってものすごく結晶多形の多い物質で,様々な結晶構造を取っています.特にアルカリメタルなどを取り込むと本当にいろいろな形が出来る.
        基本的な構造はMnの周囲に6つの酸素が配意した8面体構造です.このブロックが,隣接するブロックと辺を共有して繋がったり,頂点共有で繋がったり,はたまた一部の辺はどことも共有していなかったり,ということで凄くいろいろな構造を取ります.
        通常の電池に使われるのはγ-MnO2という構造.ただこいつの微視的な構造に関してはまだいろいろ議論があったような……
        今回使ってるのは,(今ちょっと自宅なんで関連のreferenceが見えないのですが)最初Na2Mn5O10として作っているので,ホランダイト型かそれに類するものじゃないかと思います.

        *ホランダイト構造:8面体ユニットが縦にn個,横にm個繋がって壁面となることでn×mのトンネルとなり,それが高さ方向にずっと続いてるような構造.m=∞とすると層状化合物に相当.2×2だとちょうどアルカリメタルが入りやすい.他にも1×1とか1×2とか1×3とか2×3とかとにかくいっぱい構造がある.トンネルの端からイオンが抜けたり入ったり出来る事もある(それに応じてMnの酸化数も変わる).

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      • by the.ACount (31144) on 2011年05月09日 9時52分 (#1948866)

        ナノテクノロジーと書いてある所を見ると、単純な電極のままでは微少な電力しか出ないんじゃないかなぁ〜。
        微細加工で巨大な表面積を稼いでるんじゃ?

        --
        the.ACount
        親コメント
  • 原発なり何なり、冷却用淡水を海水から得ているシステムでは、どっかに塩分と水に分離するプロセスがあると思うのだけど。
    使用済冷却水と、分離した塩分を溶かした海水とで発電したら、海への悪影響も少ないんじゃないかなぁ。

    --
    1を聞いて0を知れ!
  • 俺のおしっこで発電できる日が来るとは、、、
    • by Anonymous Coward
      エントロピー、エネルギー、おしっこ・・・ つまりほむらちゃんがまどかのアレを欲しているのは至極当然の事なのですね。
      • by Anonymous Coward

        アレゲな性癖の二次創作ネタは万人に通じる訳ではないので自重しましょう

        • by Anonymous Coward
          アレゲな性癖をアレゲなサイトで自重しろというのは、とてもアレゲですね
  • by Anonymous Coward on 2011年05月08日 19時46分 (#1948644)
    昔に似たような実験した気がするよ
  • by Anonymous Coward on 2011年05月08日 20時03分 (#1948650)
    この電池のエネルギー源って何?
    • by Anonymous Coward on 2011年05月08日 20時17分 (#1948657)

      自己レス

      #1948602の反応を見ると、塩水の淡水化、および塩の濃縮にはエネルギーが必要で(通常地球レベルではそれを太陽からのエネルギーでやってる)、その一部を逆の過程で取り出す・・・という形のようですね。
      充電に使った淡水には塩が溶け出していて、放電の塩水からは塩が消費されるようですし

      親コメント
  • by Anonymous Coward on 2011年05月09日 0時04分 (#1948735)
    ブレークスルー的なものか?
    それとも原理は前々から発見されてて
    実用化もできそうだったけどコストの面で先延ばしになったものなのかな?
    • Re:これは (スコア:1, 興味深い)

      by Anonymous Coward on 2011年05月09日 0時32分 (#1948751)

      濃度勾配からエネルギーが引き出せる(エントロピー項を使ってエネルギーを生み出せる)こと自体は遙か昔から既知。
      今回のバッテリーで使われている電気化学の素反応も既知。
      既知のエネルギー源に、既知の反応を組み合わせて、塩水と真水の間を行ったり来たりすることで電流を取り出したのは初めて。

      海洋濃度差発電(塩分勾配発電とも)自体の研究はぼちぼちある。主流はイオン分離膜を使った方式だけど。
      まあ今回のもある種のイオン分離と言えなくもないから、そういう意味では類似。その一方で、直接電極反応としてやったのは初めて……じゃないかなあ?

      まあとにかく、世の中の科学・技術の大抵の仕事は今までの膨大な成果の上に一つ石を積み上げていくことが多いから、ブレークスルーかと言われると判断に困ることも多い。特にプレイヤーの少ない研究では。
      #大勢が関与してて、揃って同じところで躓いてるんだとブレークスルーはわかりやすいんだけど。

      親コメント
      • by Anonymous Coward

        ブレイクスルーってのは幾つも有って、理論実証のブレイクスルーから製造の為のブレイクスルーから。
        でも一番重要なのは「普及の為のブレイクスルー」で、本来末端消費者が求めているのはコレ。

        実現可能な事が確認されただけの夢の技術(でも普及は無理)ってのは、実は腐るほどあったりするからなぁ…。

    • by Anonymous Coward

      コストの面で先延ばしになっていたものの実用化に目処が付いたのなら、それはそれでブレークスルーだと思う。

  • by Anonymous Coward on 2011年05月09日 1時03分 (#1948768)

    銀がいくら高くてもプラチナとかに比べれば・・・・と思ったけど、GW前には13万円/キロまで上がってたんだ。
    #GWが開けたら10万弱まで下がったけど(参考 [tanaka.co.jp])
    記憶(15年ぐらい前?)だと1万5千円/キロぐらいのイメージだったんだが、7~8倍ぐらい(円高を計算に入れるともっと?)になってたのね。

    また、この使い方だと触媒みたいに表面に薄く膜を作るだけじゃダメで、実効物質として量がいるから(さもないとサイクルが短くなって放充電回数が多くなる→寿命が短くなる)結構でかいですね

  • by Anonymous Coward on 2011年05月09日 3時40分 (#1948807)

    港で淡水充電して外洋でそこらにある海水を利用して電気を取り出すシステムのほうが合理的なような気がする。
    どこまで回航できるかは、充電池の大きさとのトレードオフかな。

    #「とある飛行士」シリーズの海猫飛行機の水素電池の実現化といっしゅん思ったがまるきり逆かぁ。

    • by Anonymous Coward on 2011年05月09日 10時54分 (#1948903)

      このバッテリーから放電された電気はどうやって陸地に送りましょうか?
      別の電池に充電?

      親コメント
      • by Anonymous Coward

        は?船を動かす動力にどうか、ってコメなんですけど?「充電池でどこまで回航できるか」でわからないか?

        知られてないのかなぁ。 マルポール条約 [wikipedia.org]で船舶から出る油・排気ガスに対する規制も強められています。
        昨年さらに規制が強まる新しい議定書が発効したので、燃料の改善とか船舶エンジン改造とかがここのところの業界の話題。
        電池駆動で走る船なら排気ガスの心配はないですし、音も静か、隠密

        • by Anonymous Coward
          バラスト水の排水も色々と制限があるっていうのに、淡水をばらまくなんて・・・
          • by Anonymous Coward

            海の上にも雨は降るのに、淡水を危惧するなんて…

            #細菌汚染されていれば話は別ですけど。

            • by Anonymous Coward
              福島第一の汚染水の放出が問題とされたように、人為的に水を捨てるのは批判されます。
              勝手に水が流れてしまうのは、たとえ恐ろしく高濃度でも、しかたないね、と。
              • by Anonymous Coward

                こういう太宰メソッドで「誰かに批判されるからこの技術は駄目」などと芽を摘む輩がいなくなれば
                世の中どんなによくなるだろうかと思う。

              • by Anonymous Coward

                >こういう太宰メソッドで「誰かに批判されるからこの技術は駄目」などと芽を摘む輩がいなくなれば

                それは誰かではなくその人が批判したいだけの詭弁ですよ。
                そのことに気付けばあなたの見ている世の中も見通しがよくなると思う。

          • by Anonymous Coward

            厳密に言うと充電時の反応で塩が溶け込んでいるんで淡水ではないですね

            また、充電時の水は港にいる段階で排出すればいいんで、港に戻すってことも可能ですね
            #その場に捨てちゃうのがほんとは楽なんでしょうけれど

  • by Anonymous Coward on 2011年05月10日 0時40分 (#1949410)

    T/O

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192.168.0.1は、私が使っている IPアドレスですので勝手に使わないでください --- ある通りすがり

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