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ムンクの「叫び」にみられるカドミウムイエロー劣化に関する調査 30

ストーリー by headless
劣化 部門より
エドヴァルド・ムンクの絵画「叫び」で用いられている硫化カドミウム(CdS)ベースのカドミウムイエロー顔料劣化について、イタリア・ペルージャ大学などのグループが調査結果を発表している(論文Ars Technicaの記事)。

ノルウェーの画家ムンクは夕日に照らされた雲がフィヨルドの上で血のような色に染まり、自然が叫び声をあげていると感じた体験をもとに、叫び声をあげるような色を使って「叫び」を描いた。この作品ではカドミウムイエローを含め、18世紀末から19世紀にかけて合成法が確立した鮮やかで大胆な色の顔料が数多く使われている。しかし、合成顔料を使用した作品を長期保存するには化学変化による退色や剥離、白亜化といった損傷への対策が必要になる。「叫び」は複数のバージョンが残されているが、今回の調査対象は1910年に描かれたムンク美術館所蔵品。盗難で失われていた2年間に損傷が進み、現在はほとんど展示されることなく保管されている。中央の人物の首の部分や黄色味の薄い空の部分では退色がみられ、オペークなカドミウムイエローで厚塗りされた湖の部分では剥離がみられる。

当時のカドミウムイエロー製造法は、金属カドミウムや酸化カドミウムなどを硫黄とともに無酸素で加熱して焼成する乾式と、カドミウム塩と水溶性の硫化物を水に溶かして沈殿させる湿式の2種類。湿式ではさまざまな色合いに調整できる一方で不純物が多く、結晶度が低いため、乾式で製造されたものよりも劣化しやすいと以前から考えらえていた。今回、非破壊的な分光法による作品全体の分析と、シンクロトロン顕微分光法による剥離した絵具微小片の分析、モックアップによる加速劣化試験を組み合わせた調査の結果、劣化部分のカドミウムイエローは湿式で製造された可能性が高いことが判明する。一方、劣化が進んでいないオレンジ色の部分で使われているカドミウムイエローは乾式で製造されたとみられる。

CdSが酸化してできる硫酸カドミウム(CdSO4)は退色の原因となる白っぽい物質の一つとされるが、加速劣化試験で光によるCdSの酸化はみられず、高湿度(湿度95%以上)の条件で酸化が進んだという。ムンクが使用していた油絵具も1世紀の間にチューブ内で劣化が始まっていたことが示唆された。高湿度下ではCdS顔料に含まれる水溶性の物質が溶解して塗膜の不安定さを生むとも考えられる。水溶性の物質としてはCdSO4のほか、さまざまな亜硫酸塩や塩素化合物が確認されており、これらの物質が高湿度下の油絵具のバインダー(油)の中で酸化に与える影響の調査は今後の課題の一つとなる。

この調査を通じて得られたCdS顔料劣化の仕組みに関する手掛かりは、作品の予防保存に有意義な情報となる。CdS顔料はムンクだけでなくゴッホやマチス、アンソールといった近代画の巨匠が数多くの作品で使用しており、これらの作品の予防保存にも役立つことになるだろう。
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  • 晩年のムンクは、絵は風雨に晒されて、良くなるとして。描いた絵を屋外に放置したりしていました。(周りの人はヤメロと言ってたみたいですが)絵の具の変質はもしかしてムンクが望んだこと(良くなる)なのかもしれません。

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あつくて寝られない時はhackしろ! 386BSD(98)はそうやってつくられましたよ? -- あるハッカー

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