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たすけてphasonさーん
呼ばれたので出てきてみます.
この話の源流をたどると,固体物性の世界のアンダーソン局在という現象に行き着きます(アンダーソン先生はこのあたりも含めた仕事でノーベル物理学賞を受賞).
アンダーソンが半世紀ほど昔に見つけた事というのは,「固体中にランダムに散乱源(不純物など)が存在していると,そこで散乱された電子波が複雑にぐるっと一周して自分自身を強め合う(=定在波を作る)ような経路が必ず生じる.そのため不純物濃度がちょうど良いぐらいになると,伝導電子が局在化する」というものでした.それまでは欠陥に電子がトラップされて局在する,などというのは考慮されていたのですが,アンダーソンが予測した現象はまさに電子の波動性そのものにより生じる局在化で,自分自身(が散乱されたもの)が干渉し合って,ある程度の範囲内から出られなくなる,という新しい現象だったわけです.
でまあ,この話は要するに波動性から来ているわけですから,原理的には光でも同じ事が起きて良い,という予想は昔から立てられていましたし,これを使ったランダムレーザーというものも最近研究が進んでいます.(ポンピングされたランダムな媒体中だと,無数の散乱源に散乱された光が特定の経路で強め合う周回を起こし,そこをある種のキャビティとしてレーザー発振が起こる)
で,こいつを太陽電池にどう結びつくかというと,「光が特定の経路に勝手にトラップされる=吸収した光を逃がさない」となるわけで,つまり非常に光をよく吸い込んで逃がさない媒体が作れる可能性があるよ,と.太陽電池の光吸収部をこのランダムな媒体で作れば,この素材中の経路にトラップされ抜け出せずにぐるぐる光が回っている間に電力に変換され,そうすると吸収効率高いから効率よいよね,とかそういう感じで.
さらに近年では,「特定な波長域の光を閉じ込める」のなら,完全なランダムポテンシャルよりも,その波長を特に閉じ込めやすい「擬ランダムなポテンシャル」の方が効率が良い,という方向での研究も出てきていました.完全にランダムなポテンシャルというのは要するに様々な波長(波数)のポテンシャルが混合されたホワイトノイズです.それに対し擬ランダムポテンシャルは,波数kaから波数kbの間ではランダム,それ以外の波数のポテンシャルはなし,というような,ある周波数帯の中でだけホワイトノイズとなっているようなポテンシャルですね.で,うまいことこのkaとkbの値を選ぶと,可視光あたりのトラップ効率が高い,と.
こういう「ある範囲でランダムなナノ構造」というのは実際に作るのはなかなか大変でコストもかかります.ところがBlu-rayのディスクが非常にこの太陽電池向けの「擬ランダムポテンシャル」によく似た分布を持っていた,というのが今回の報告のキモです.
論文の図1(大雑把には購読していなくても見られる)を見ていただくと,一番上がランダム性ゼロの周期的ポテンシャル(図の左が実空間,右が波数空間(要するにフーリエ変換したもの)になります)で,二番目が完全にランダムなポテンシャル,そして上から三番目が太陽電池などに理想的な擬ランダムポテンシャルです.波数空間(右側の図)で見ると,原点近くのある程度の幅のドーナツ状の領域(図が小さいと円状の領域に見えますが)だけが黒くなっていることがわかると思います.で,面白いのが一番下にあるBlu-rayの場合です.ビットは円周方向に並んでいるのでx軸方向とy軸方向がやや非等価になっていますが,波数の範囲が理想的な場合に近く,さらに(その範囲内で)ほどほどにランダムになっています.
ということで,
・ランダムなポテンシャルがあると,アンダーソン局在が生じて光をトラップできる.・とくに,ある波数域だけに限定した擬ランダム構造だと効率が高い.ただし作るのにはコストがかかる.・こういった擬ランダム構造をパターニングした太陽電池が作れると,光をトラップすることで変換効率が上がる.・実はBlu-ray上のドットは,この最適化擬ランダムポテンシャルに結構近いランダムポテンシャルになっている.・Blu-ray引っぺがして,その凹凸を転写した太陽電池を作ってみたら,結構良い効率.・これなら安く作れるから,どんどん取り入れると良いんじゃね?
という感じで.
反射光が干渉で減る!
なるほど、オタクがアニメや漫画などの「ある範囲だけで自由度のある物語構造」で妄想を膨らませた結果、実世界との溝を大きくして引き籠りになるのと同じですね(←違うって)
「Blu-rayディスクは青の波長に対して干渉を起こす大きさのピットが、1〜7という制限された間隔の範囲でいい感じでばらついている」というのがよかったのでしょうね。材料の違いでピークの波長が青からズレたとしてもエネルギーの多い領域からは外れないでしょうし。
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Stableって古いって意味だっけ? -- Debian初級
わからん (スコア:0)
たすけてphasonさーん
Re:わからん (スコア:5, 参考になる)
呼ばれたので出てきてみます.
この話の源流をたどると,固体物性の世界のアンダーソン局在という現象に行き着きます(アンダーソン先生はこのあたりも含めた仕事でノーベル物理学賞を受賞).
アンダーソンが半世紀ほど昔に見つけた事というのは,「固体中にランダムに散乱源(不純物など)が存在していると,そこで散乱された電子波が複雑にぐるっと一周して自分自身を強め合う(=定在波を作る)ような経路が必ず生じる.そのため不純物濃度がちょうど良いぐらいになると,伝導電子が局在化する」というものでした.
それまでは欠陥に電子がトラップされて局在する,などというのは考慮されていたのですが,アンダーソンが予測した現象はまさに電子の波動性そのものにより生じる局在化で,自分自身(が散乱されたもの)が干渉し合って,ある程度の範囲内から出られなくなる,という新しい現象だったわけです.
でまあ,この話は要するに波動性から来ているわけですから,原理的には光でも同じ事が起きて良い,という予想は昔から立てられていましたし,これを使ったランダムレーザーというものも最近研究が進んでいます.
(ポンピングされたランダムな媒体中だと,無数の散乱源に散乱された光が特定の経路で強め合う周回を起こし,そこをある種のキャビティとしてレーザー発振が起こる)
で,こいつを太陽電池にどう結びつくかというと,「光が特定の経路に勝手にトラップされる=吸収した光を逃がさない」となるわけで,つまり非常に光をよく吸い込んで逃がさない媒体が作れる可能性があるよ,と.
太陽電池の光吸収部をこのランダムな媒体で作れば,この素材中の経路にトラップされ抜け出せずにぐるぐる光が回っている間に電力に変換され,そうすると吸収効率高いから効率よいよね,とかそういう感じで.
さらに近年では,「特定な波長域の光を閉じ込める」のなら,完全なランダムポテンシャルよりも,その波長を特に閉じ込めやすい「擬ランダムなポテンシャル」の方が効率が良い,という方向での研究も出てきていました.
完全にランダムなポテンシャルというのは要するに様々な波長(波数)のポテンシャルが混合されたホワイトノイズです.それに対し擬ランダムポテンシャルは,波数kaから波数kbの間ではランダム,それ以外の波数のポテンシャルはなし,というような,ある周波数帯の中でだけホワイトノイズとなっているようなポテンシャルですね.で,うまいことこのkaとkbの値を選ぶと,可視光あたりのトラップ効率が高い,と.
こういう「ある範囲でランダムなナノ構造」というのは実際に作るのはなかなか大変でコストもかかります.ところがBlu-rayのディスクが非常にこの太陽電池向けの「擬ランダムポテンシャル」によく似た分布を持っていた,というのが今回の報告のキモです.
論文の図1(大雑把には購読していなくても見られる)を見ていただくと,一番上がランダム性ゼロの周期的ポテンシャル(図の左が実空間,右が波数空間(要するにフーリエ変換したもの)になります)で,二番目が完全にランダムなポテンシャル,そして上から三番目が太陽電池などに理想的な擬ランダムポテンシャルです.波数空間(右側の図)で見ると,原点近くのある程度の幅のドーナツ状の領域(図が小さいと円状の領域に見えますが)だけが黒くなっていることがわかると思います.
で,面白いのが一番下にあるBlu-rayの場合です.ビットは円周方向に並んでいるのでx軸方向とy軸方向がやや非等価になっていますが,波数の範囲が理想的な場合に近く,さらに(その範囲内で)ほどほどにランダムになっています.
ということで,
・ランダムなポテンシャルがあると,アンダーソン局在が生じて光をトラップできる.
・とくに,ある波数域だけに限定した擬ランダム構造だと効率が高い.ただし作るのにはコストがかかる.
・こういった擬ランダム構造をパターニングした太陽電池が作れると,光をトラップすることで変換効率が上がる.
・実はBlu-ray上のドットは,この最適化擬ランダムポテンシャルに結構近いランダムポテンシャルになっている.
・Blu-ray引っぺがして,その凹凸を転写した太陽電池を作ってみたら,結構良い効率.
・これなら安く作れるから,どんどん取り入れると良いんじゃね?
という感じで.
Re:わからん (スコア:1)
反射光が干渉で減る!
the.ACount
Re: (スコア:0)
なるほど、オタクがアニメや漫画などの「ある範囲だけで自由度のある物語構造」で妄想を膨らませた結果、実世界との溝を大きくして引き籠りになるのと同じですね(←違うって)
Re: (スコア:0)
「Blu-rayディスクは青の波長に対して干渉を起こす大きさのピットが、1〜7という制限された間隔の範囲でいい感じでばらついている」というのがよかったのでしょうね。材料の違いでピークの波長が青からズレたとしてもエネルギーの多い領域からは外れないでしょうし。